グリーフケアの必要性とグリーフケア研究所の設立

「グリーフ」とは、深い悲しみ、悲嘆、苦悩を示す言葉です。

「グリーフ」は、さまざまな「喪失」、すなわち、自分にとって大切な人やものや事柄を失うことによって起こるもので、何らかの喪失によってグリーフを感じるのは自然なことであります。

人生にはさまざまな喪失がつきまといます。最も大きな喪失は、家族やかけがえの無い人との死別です。特に災害や事件・事故、あるいは自死など、予期せぬ形で家族と死別することは、最悪の喪失体験であり、大きなグリーフとなる可能性があります。

1999年、世界保健機関(WHO)は、健康の定義について「身体(physical)」、「精神(mental)」、「社会(social)」そして「スピリチュアル(spiritual)」の4つの領域があることを提案しています。

グリーフケアとは、スピリチュアルの領域において、さまざまな「喪失」を体験し、グリーフを抱えた方々に、心を寄せて、寄り添い、ありのままに受け入れて、その方々が立ち直り、自立し、成長し、そして希望を持つことができるように支援することです。

現代日本は、稀にみる高齢化社会を向かえつつあります。戦後、多くの日本人が都市に移り住み、そして大家族から核家族へと変化が進みました。かつては自宅で亡くなる方が多かったのですが、近年は病院で亡くなる方が大半となり、近親者の死を身近に経験する機会、死と向き合う機会が減少しました。また、伝統的な宗教が弱体化し、葬送儀礼も形骸化しつつあります。同時に、地域社会も弱体化し、葬送に対する地域社会からのサポートも減少しています。死生観が空洞化し、悲嘆を抱える方々を支える場、癒しの場が少なくなっています。

多元価値社会とも言える現代は、一人ひとりが、自らの生きがいを求める時代、人間らしい死に方を求める時代であると言うこともできます。それは、医療や先端科学技術の現場はもとより、福祉や介護の現場、災害や事件・事故の現場、教育の現場、葬儀の現場など、さまざまな現場において、グリーフケアが必要とされる時代となっています。

上智大学グリーフケア研究所は、グリーフケア並びにスピリチュアルケアにかかる学術研究とグリーフケア、スピリチュアルケアに携わる人材を養成するとともに、我が国におけるグリーフケアの理解、啓発を行い、グリーフを抱える者「悲嘆者」がケアされる健全な社会の構築に貢献することを目的として設立いたしました。

グリーフケア研究所設立の経緯

グリーフケア研究所は、グリーフケアの必要性の高まりを受けて、日本で初めてグリーフケアを専門とした教育研究機関として、2009年4月に設立されました。

2005年4月25日にJR西日本の福知山線で発生した列車脱線事故の教訓を生かし、社会に役立つ取り組みの一環として、事故のご遺族の方々をはじめとした悲嘆者に対するグリーフケアを実践するために役立つことを目的に、JR西日本及び公益財団法人JR西日本あんしん社会財団の全面的なご支援により、公開講座「『悲嘆』について学ぶ」、そしてグリーフケアの実践を遂行できる専門的な知識・援助技術を備えた人材を育成するグリーフケア人材養成講座を開講しました。

2010年4月、グリーフケア研究所は上智大学に移管され、上智大学大阪サテライトキャンパス(大阪市北区)と東京の四谷キャンパスの2ヶ所で活動しています。

上智大学グリーフケア研究所は、グリーフケアや死生学に関する研究、研究会の開催、諸文献の収集及び紀要、著作などの刊行を行うとともに、「グリーフケア人材養成講座」を、大阪サテライトキャンパスでは2009年度から、東京四谷キャンパスでは2014年度から開講しています。また、2010年度からグリーフケア公開講座「悲嘆について学ぶ」を東京四谷キャンパスで開講しています。また、2016年度に、龍谷大学との共催により、京都でグリーフケア公開講座「悲しみを生き抜く力」を開講しました。2017年度から大阪サテライトキャンパスに場所を移してグリーフケア公開講座「悲嘆について学ぶ」を開講しています。

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